第242号:授業での人事採用担当者の目線

今週の私の授業では、大手企業で人事採用業務をやってきた方にゲストでおこし戴き、学生の企業の求める人材や就職活動をする最近の学生の傾向や大学生活での心構えなどをお話し戴きました。受講生が1~2年生なので、まだ就職活動について具体的なことを指導する必要はないのですが、コメントをお願いした開口一番、学生にとって非常に大事なことをお話し戴きました。

 

今回の授業のテーマは「就活と人事の視点」というもので、最初に私から就職活動(特に面接)における最近の学生の傾向を講義してからゲスト講師の方との質疑応答(パネルディスカッション)に入りました。その最初のコメントをお願いしたときです。

 

「皆さん、いま鈴木先生からいろいろお話し戴きましたが、本当に聴いていましたか?私には皆さんが先生の話を聴いていたようには見えません。何故、先生の話に頷いたり首を傾げたり、しないのですか?」

 

実はこの方は多くの人事採用担当者と同様にキャリアカウンセラーの資格もお持ちで、現在は企業の人事コンサルタントとして活躍されています。研修講師として管理職の方に部下の育成方法等も指導されています。

 

「先ほど先生が指摘された内定が取れない学生の面接回答傾向で、業界企業研究不足、説明力(ロジカルシンキング)不足、コミュニケーション力不足というお話しがありましたが、特に注意して欲しいのがコミュニケーション力不足です。というのは最初の2つは比較的早く習得できますが、コミュニケーション力は体得するのに非常に時間がかかるのです。私が社会人の管理職の方々に部下との面談の仕方を指導する際、本当に多くの方々がこれができずに苦労しています。本人の自覚も少なく、気づいても修正するのに時間がかかります。相手の話を聴くための姿勢ができていない、相手の話に無愛想で反応していない、つまり相手にとっては聴こうという態度が見えず、話す意欲を失うのです。コミュニケーション力は伝えるだけでなく、聴き出す力も大事なのです。」

 

皆様には釈迦に説法のノンバーバル(非言語)コミュニケーションのことですが、初対面の社会人からズバッと言われた学生達には非常にインパクトがありました。授業後の感想文で殆どの学生がこの点を気づかされ、日頃の授業の受け方を反省しておりました。私も授業の最初からこの点を伝えてリアクションをしながら講義を聴くようにと指導していたのですが、やはり外部の方の(特に人事のプロの)目線は説得力がありますね。

 

学生のコメントの中には「私はリアクションしたいけど、周りのみんながしないのでやらなくなった」「授業は静かになるべく音をたてないで受けるものだと思っていた」「予備校の授業で頷きすぎはそちらに意識がいくからするな!と指導された」等々、笑えるものもありましたが、全員、良い刺激を受けておりました。 いやいや、授業を通じて学生の就活力を向上させる手段はいくらでもありますね。私の口癖ですが、「就職活動のために大学があるんじゃないが、就職活動ごときに対応できない大学の学びは浅すぎる」と改めて思った次第です。

第241号:就職準備不足とは何が本当の問題か?

経団連のご指導による倫理憲章のお陰様で、会社説明会の会誌は12月からとなり、マスコミの多くはこれによって学生の内定率が下がったと報じています。(元に戻したくて仕方ないようですね。)しかし、就活時期が遅れたことと内定が下がったことに、どのような相関や因果関係があるかを明らかにした研究は寡聞にして知りません。これをちゃんと調べて論文にしたら相当に評価されると思いますが、現状は推測や言説の域を出ていないと思います。

 

仮に、もし12月に遅れたことにより内定を取れない学生が増えたという説を肯定するならば、私にも一つの見方があります。それは倫理憲章を理由にして12月まで何もしなかった学生だったからこそ内定が決まらなかったのです。就職活動は自分で始めるものではなく、誰かが「さあ、スタートですよ。まずは自己分析して、企業を研究して、筆記試験の練習をして、グループ・ディスカッションの練習をして、面接の練習をして、あ、そうそう、ビジネスマナーやスーツに化粧も手を抜いてはいけません・・・ etc.」と言われたままにやっているような学生だからこそ内定がとれなかったのです。

 

原因は時期が遅れたことにあるのではなく、自分の頭で考えず、自分の意志で行動せず、大学受験と同じようなことをやっていたからです。皮肉なことに、倫理憲章はそうした学生と、自分で考え行動した学生の違いを明らかにしてしまったようです。これは前世紀から言われていることですが、社会で求められるのは正しい解答を探す人では無く、自分の回答を創る人です。前者は教わったことで壁にぶつかったらすぐに立ち往生して誰かに頼ります。後者は壁にぶつかったすぐに自分の別の手段を考えて動きます。

 

企業情報の提供が、たかが2ヶ月遅れたり早くなったりで、学生の社会を知る範囲がどれだけ変わるものでしょうか?学生の人間としての能力がそれほど変わるものでしょうか?企業が求めているのは2ヶ月やそこらでわかる表面的な知識ではなく、その下にある自主性や計画性や洞察性や戦略性、判断力や行動力や忍耐力です。2ヶ月の就活期間不足により、業界・企業研究不足だと指摘される学生は、もっと低次元のその会社の事業分野や基本的なビジネスモデルや、はては社長の名前とかを知らない非常識なケースです。

 

ということで、採用担当者としては12月に遅らせてくれたお陰で、できる学生とそうでない学生の見分け方がよくわかるようになりました。だからもう2ヶ月遅らせて3年の春休みからやってくれるとなお助かりますし、経済同友会の主張のとおり4年の8月なら大歓迎です。採用担当者として良い人材が確保できないなどと心配はありません。ちょっと隣国を見れば語学堪能かつ高学歴で熱心な学生が自国で就職できずに日本に押し寄せてきているのですから。(近隣諸国とのトラブル対応は、近隣諸国の社員を採用して対処するのが一番です。これはかつて大英帝国がインド支配に、イギリスに恭順したインド人を警官や公務員にして現地支配を行った手法であり、海外に進出する日本企業も現地法人を設立する際には行っていました。)

世界がどんどんつながっていくなかで、いつまでも横並びでヨーイ、ドン!っとやっているようではいけませんね。