企業のエントリーシート(ES)の締切が迫ってきています。オフィス街のファーストフード店に入ると企業のロゴが入ったESを前に考え込んでいる学生が無数に居ります。中には数人で添削し合っていたり。これだけ熱心に勉強してくれたら・・・と思わされます。私の方でもESの評価をしますが、最近の学生は本当に文章を書く力が落ちたと思います。大学の授業で教えていることをしっかり理解していれば、相当に対処できるはずのですが、教員が教えていないのか、学生が学んでいないのか・・・。
私は、大学の授業は立派に世の中の役に立つと考えております。直接仕事に通用する知識ではありませんが、アカデミックスキルとは相当に応用範囲が広いものです。例をあげて説明しましょう。
・一次情報にあたる
昨年このコラムで、大学では「事実」と「意見」を峻別することが必要だと書きました。レポートも「事実に基づいて意見」を展開するものだということですが、更にその「事実」は一次情報でなければなりません。文学であれば、誰かの書いた評論(二次情報)ではなく原典を読めということです。原典の読後なら他者の評論も自分の視点で解釈できますが、そうでなければ受け売りになってしまいます。一次情報にあたるのは手間暇がかかります。外国文献ならば語学のハードルもあるでしょう。しかし、そうした地道な作業こそが大学での研究活動であり、そこから忍耐力や文章力が身に付きます。
・複数の情報を集める
更に、一次情報でも可能な限り多くの情報を集めることです。例えば経営学で労働者の意識調査を行うとき、アンケート調査(定量調査)やインタビュー調査(定性調査)を実施しますが、一人や二人の回答では一次情報とはいえ信憑性に欠けます。時間や費用の許す限り、数多くの情報を集めることが必要です。そして、そうして集めた複数の一次情報を、集計したり解釈することによって、分析力や判断力が身に付きます。
・持論を展開する
更にこうした作業後に重要なのは、分析した情報をじっくり考察して自分の意見を考え出すことです。これが忘れては、レポートの個性が出てきません。これによって創造力や提案力が身に付きます。
翻って学生の書くESを読んでみると、志望動機の殆どが企業のセミナーやWebに掲載されている情報だけを元に書かれています。それらが人事部の用意した二次情報であることに気付いていないのでしょう。結果、誰でも似たようなESになってしまいます。ちょっとできる学生ならば、OB訪問で一次情報を求めにいくでしょう。しかし、一人や二人の社員に会っただけでその企業全体がわかったつもりになるのは早計です。そうした分析が甘いことを理解しつつ、更に多くの情報を集めるか、異なる情報リソースを求めていく、そうした学生ならば、事実に基づいた持論を展開できるようになります。つまり就職活動を上手くできる学生とは、ちゃんと大学の授業で学ぶべきことを学び、それを応用できる学生なのですね。