第210号:「何でも良いから頑張ろう」はもう危ない?

「学校名不問」という言葉がもてはやされる日本の採用選考活動は、人物重視といわれています。いま主流のコンピテンシー面接では応募者の能力や資質を理解するために過去の経験を丹念に尋ね、その成果や取り組み方によって人物を判断するわけです。その意味では、頑張ったことは何でも良いのですが、どうも最近はそれでは危なくなってきた気が致します。

 

採用選考では、「落とす理由」と「通す理由」があります。前者はグループ・ディスカッションで見られるような組織内での消極性や面接で感じるコミュニケーションの違和感等、当然に期待されている知識や常識や対人スキル等です。後者はその学生が他者と比較してぬきんでている能力・資質で、わかりやすく言えば、TOEIC900点を持っている等の事実です。(逆に英語がまったくできないとなると落とす理由になりますが。)

 

面接において、学生生活において一番、頑張ったことを尋ねると、もっとも多く出てくるのはアルバイト経験で、次はサークル活動です。(残念ながら勉強をあげる人は非常に少なくなってしまいました。)そのアルバイト経験について詳しく問うてみると、かなり内容が似ているので、採用担当者にとってはそれで差を付けることは難しくなってきました。似通った経験は「通す理由」ではなく「落とす理由」になってしまうからです。上記のTOEICや資格についても、その実力が多くの人と似通ったレベルなら「通す理由」にはなりません。

 

翻って、世の中のアルバイトを見てみると、その多くは労働収益的で似通ったものです。アルバイトが20年前と異なるのは、その内容が正社員と非正社員の仕事とに明確に分かれてきた点です。以前であれば正社員の多くいる職場に非正社員(学生アルバイト等)が入っていけたわけで、正社員と非正社員の仕事の違いを大きく感じることができました。ところが今は、少数の正社員が多数の非正社員を動かして仕事をするようになってきて正社員の仕事が感じにくくなってきています。それは大規模チェーン展開の業界(家電量販店、ファミリーレストラン、ファーストフード店、コンビニエンスストア etc.)を見ればハッキリしています。

 

結局、今の学生を非個性化している一因は、こうした業界が学生を主戦力にするようになってきたからではないでしょうか。そして学生は、こうしたアルバイトを通じて生活環境(ライフスタイル)を身に付けていきます。

この点をリアルに感じさせられたのは、今春の学生の授業の受け方です。震災の影響で多くの大学は開講時期を遅らせました。新入生は入学した途端に暇になってしまい、アルバイトを探し、GW明けの授業開校時にはアルバイトのシフトに組み込まれてしまいました。つまりアルバイトによって生活のペースメーカーができてしまったのです。そして、「アルバイトがあるから授業に出られない。」という自分に対する大義名分を身に付けてしまったようです。

 

こんなわけで、授業や就職ガイダンスで、「何でも良いけれど頑張りなさい」と言ってきた私ですが、最近はちょっとこの言葉を飲み込み、こんな言葉を言うか言うまいか迷っています。「頑張ることはしっかり選んで取り組みなさい。それが貴方の将来を決定します。」

第209号:現出した通年採用

春の採用選考を延期した商社や製造業が動き出し、今期の採用活動も(最後の?)ヤマ場になりました。街中にリクルートスーツの学生がまた目立ち始めています。しかし、既に就職活動を終えた学生も相当数に出ておりますので、街中にリクルートスーツが溢れているという状況ではありません。こうした五月雨式の採用・就職活動が、いわゆる「通年採用」のささやかな現れです。

 

これまで何度か書きましたが、「通年採用」とは企業が1年中採用活動を行っている、新卒学生がいつでも企業に応募できるということではありません。採用時期も採用数も状況に応じて決める、というものです。つまり今春のように企業によって採用活動がまちまちになってきます。

 

それは応募者にとって、志望業界・企業の採用時期が集中せずに応募機会が増えるというメリットと、志望する企業の採用活動状況に常に注意を払うという煩雑さのデメリットがあります。これは就職活動を完全に自分自身でコントロールできる「自己責任型」の応募者にはメリットで、就職活動を環境に委ねる「他者依存型」の応募者にはデメリットだといえます。どちらが良いか?という議論は大学生がわりと均一していた前世紀の話しで、現在のように大学生が多様化した時代には、もうそれぞれのメリットを分けて認めるべきでしょう。

 

では、今後の通年採用の時代に適合した「自己責任型」の応募者になるには、どんな資質が求められるのか?具体的には以下のような、良い意味での「自己中心型」ともいえましょう。

・自己肯定感が強い

⇒第一希望の会社は、(内定して)自分が入社を決めた会社だと考える。

・周りに左右されない

⇒就職活動を始めるときも終わるときも自分で決める。

・ダメ元ができる

⇒説明会が用意されてない企業でも、ドアを叩いて尋ねる無駄ができる。

 

これらの素養を暗に期待している企業の言葉をお伝えしましょう。つい先日、お会いしたハイテクベンチャー企業の社長に伺ったコメントです。

「中小企業の側から見ると、採用は結構むずかしいですね。毎年採用なんかしないので、人事部もないし、学校にコネもない。就職難とか言ってますが、同時に採用難が発生しています。」

 

こうしてみると、結局、新卒一括採用とは、企業も学生もお互いの効率を考えて形成されてきたものではないかと思えてきます。上記のような「自己責任型」人材になるのはなかなか大変だと思いますが、これも時代の要請なのでしょう。世界においては、こちらの方が標準ですからね。厳しい時代・環境をバネして自立していく、それは今の日本にとって最も大事な課題ではないかと思います。