第203号:新卒一括採用の良さ

日本の新卒一括採用はガラパゴス化しているので止めるべきだという発言をよく耳にします。しかし、今の日本では新卒一括採用のメリットの方が大きいと私は思います。それは、社会人育成を大学と企業が自然と連携して行っている有機的なシステムで、世界でもなかなか見ない良いものだからです。

 

新卒一括採用に反対の方の意見は主に以下のものだと思います。

1.新卒だけでは多様な人材が採用出来ず、企業が画一的な人材ばかりになる。

2.就職時の経済状況が悪くて就職出来ないのは本人の能力とは関係なくかわいそうである。

3.世界でこのシステムを行っている国は日本と韓国だけでグローバル・スタンダードではない。

 

それぞれに私の意見を述べてみると、まず1のような新卒一括採用だけしか行わない企業は既に少数派だと思います。30年前ならばともかく、いまでは新卒一括採用と中途採用の両方を使い分けている企業が殆どでしょう。また、画一的と言いますが、未だにそうした人材を重宝している業界も多いです。中央集権的な人事政策の大企業では、本社はエリートですが、支店は没個性のワーカーが望ましいと考えている企業は数多あります。

2については、不況になれば新卒採用も中途採用も止まるので(むしろ中途採用の方が先に止まります)、新卒一括採用制度の問題ではありません。また、そうした運・不運に左右されることを、不況期間が相当に長ければともかく、国や企業が支援することは妥当でしょうか?例えば、バブル崩壊期に一番、損をしたのは住宅(マイホーム)を購入したり、金融資産を運用する余裕のあった30~40歳の層で、いまだに重いローンを抱えている方もおりますが、その前後の世代はあまり影響を受けておりません。就職と財テクを同じに論じることはできませんが、好不況に個人が左右されるのはいつの時代でも同じです。むしろ私の懸念は、不況を理由にして学生がすぐに就職活動を諦めてしまうことです。

最後の3の主張は、採用方式というのは、それだけで存在しているのではなく、その国の法制度・教育制度・文化的背景と相まって、その国それぞれに形成されることを忘れています。世界の大多数と違うから変だ、というだけならナンセンスです。もし日本の大学が、世界の大学と同様に職業訓練に近い教育を行えるようになれば別ですが。

 

私は何が何でも新卒一括採用を継続すべきだとは思っておりません。リクルートワークスの大久保氏が主張するように、日本は新卒採用を世界で一番、うまく運用している国だと思っているだけで、いずれは通年採用の比率は高まってくるだろうと思います。しかし、仮にいま新卒一括採用をやめて一気に通年採用に移行したしたらどうなるか?メディアや識者の方は通年採用とは企業が一年中門戸を開いていると思い込んでおりますが、それは大きな誤解です。中途採用と同じく、必要な時期に必要な人員だけしか採用せず、しかも中途採用に近くなるので十分な社員教育は行わなくなるでしょう。

 

つまり、新卒一括採用の学生にとっての最大のメリットは、確実に企業の門戸が開く時機がわかるということと、即戦力でない若者を社会人のイロハから教育すると言う点です。日本の最強の職業教育は、企業の新人研修なのですから。そうした新人からの人間関係を通じて醸成される仲間意識や「恩」が、日本人の強さだと思います。これを忘れて通年採用に向かうのは相当に危険なことだと感じています。

 

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