第191号:初年次教育雑感

今週のビジネス雑誌(週刊エコノミスト)に大学の教育力についての特集がありました。定期的に扱われる話題ですが、「就職に強い大学」というキャッチコピーを見ると、採用担当者としては我々の実感と合っているか気になってチェックしたくなります。今の大学は学生の意識も学力も多様化しているので、こうした全大学を対象にしたアンケートは総花的になりがちですが、大学の新しい教育手法や取り組みには注意していて、思わず「よし!今度、就職課を訪ねてみるか!」と食指を動かされることもあります。しかし正直なところ、年々、その取り組みが低次元になっていると感じます。

 

今回の特集では、大学の「教育力格差」が広がっているとの視点から、「初年次教育」の重要性を指摘されています。これは妥当なことだと思うのですが、問題はその内容です。この特集で、初年次教育の目的は以下の9点が挙げられています。

1.学生生活や学習習慣などの自己管理

2.高校までの不足分の補習

3.自大学の理解

4.人として守るべき規範の理解

5.リポートの書き方や文献検索法などのスタディスキル(学習技術)

6.クリティカルシンキング(論理的に考えること)など大学で学ぶ思考方法の獲得

7.大学の中での居場所や友人の獲得

8.高校までの受動的な学習から能動的で自律的な学習態度への転換

9.専門への導入

*週刊エコノミスト8月31日号「娘、息子を通わせたい大学」から引用

 

このうち、1~4と7の項目を見て、これは本当に大学が教えるべきことなのか?と感じます。これらはどう考えても大学入学前の教育課題ですし、親の躾の問題であり、大学が背負うのは非常な負荷です。(しかも、浮き世離れしているオエライ最高学府の先生にこれらを教えられますか?)初年次教育とかリメディアル教育と称して、それをストレートに社会や親に言えない世の中は変だと思います。

と書きつつ、現実的に今の大学にはこうした教育が必要な学生が居ることは、私自身も身に染みてわかっています。授業では幼児化した大学生を相手に日々悪戦苦闘しています。まさに親の躾代行です。

 

閑話休題、採用担当者の視点では、こうした項目を重視した初年時教育の充実をアピールされても、やや冷めた目で「ああ、この大学はターゲットから外しておこう」と思うことがあります。というのは、こうした初年次教育の効果がわかりませんし、逆に確実にわかるのはこうした初年次教育が必要な学生が居る大学なんだな、ということです。(親向けには良い広報なのですがね・・・。)

 

かつての会津大学や慶應SFCが登場したときのような、遠方でも「ちょっと訪問してみよう!」と採用担当者が思わされるような大学教育の登場を期待したいと思います。日本の雇用が日本の大学を諦めて海外移転する前に。

 

第190号:就活に苦労する子をもつ親世代

ようやく夏休み入り、蝉の声が静かな校舎に染み入る季節、と言いたいところですが、この時期はオープンキャンパス等でご多忙にされている職員の方々も多いことでしょう。キャンパスを歩いていると、高校生のお子さんを同伴の親子連れをよく見かけます。親が子供と一緒に将来を考えるというのは素晴らしいシーンですが、どうも我々、教職委員、そして採用担当者にとっても、親世代は鬼門となりつつあるようです。

つい昨日、私の携帯電話が鳴りました。私が就職支援を行っている地方大学の職員の方から急ぎの相談で、「いま、学生と保護者の方が一緒に就職相談にみえているのですが、どこかの企業採用担当者で、これから面接を行ってくれる方は居りませんか?」という切迫した状態です。数年前であれば、「それはお困りですね、では早速問い合わせてみましょう!」と、学生の要望を伺って採用担当者仲間に打診したものです。しかし、今は違います。皆様も同じ状況だと思いますが、こうしたケースはもう珍しいものでなくなってしまいました。

しかも、状況はますます深刻になってきたようで、こうしたケースで必死になっているのは親御さんの方で、当の学生さんは、ずっと黙って座っているような状態です。学生本人に「どんな企業や仕事が希望なんですか?」「何が原因で就職活動がうまくいかないのですか?」と尋ねてみると、横から親御さんは、「それはですね・・・」と解説する始末。口には出せませんが、(ああ、この家族もこの親御さんが原因なんだ・・・)と思います。

この根の深い問題は、とてもこの短いコラムで語れるようなものではありませんが、私が改めて身近に感じさせられたのは、先日、高校の同窓会で旧友たちと久しぶりの再会を果たした時です。多くの同窓生達が、ちょうど大学生の子供をもつ世代になってきていたのですね。近況報告で、私が企業採用担当者のコンサルティングや、大学でキャリア教育や就職支援をしているキャリアカウンセラーだと話した途端、何人かの友人達が「実は、うちの子が・・・」と相談にやってきました。その後、メールや電話でも「うちの子に会ってくれないか?」との連絡もありました。

ここで改めて感じたのは、この問題で本当に悩んでいる人も、我々、親世代なんだな、ということです。親はこの問題の原因であり、被害者でもあるのですね。しかも悩ましいことに、その親自身がこのことに無自覚なことが多いです。高校の友人には、その点を率直に言ってあげられるので良いのですが、これが大学の保護者だと気を遣います。

我々の世代は、我々の親世代と違って、大学卒業者が多数派になりはじめ、新卒で就職活動もそれなりに経験しています。だからこそ、一言をもつ人が多く、それが今の時代とズレているのを認めたがりません。(このズレに気づいている親は話が早いのですが、年はとりたくないものです。)

ともあれ、この難題に向かう第一歩は、筆舌し難い状況の家族も居りますが、その親御さんの苦悩を理解して、味方になってあげることなのでしょうね。対応を間違って、モンスターペアレント化でもされたら、それこそ夏の夜の怪談より恐ろしいことになりますから。

(追伸:多少、涼しくなりましたでしょうか?暑中お見舞い申し上げます。)