第184号:文科省の就業力育成支援事業

GW明けで就職指導もますますご多忙な時期かと思いますが、官公庁の公募シーズンでもありますね。大学によって体制はそれぞれですが、今回の文科省の公募のように「就業力育成支援事業」となると、就職課やキャリアセンターの職員の皆さんにいきなり仕事がふられることがあるのではないでしょうか。この季節は私の方にもこうした相談を戴くことがありますが、今回の案件はなかなかハードルが高いと感じます。

 

まず「就業力」というものがよくわかりません。英語のエンプロイアビリティ(Employability)の訳から来たものかもしれませんが、これは一般に「企業に雇用されうる力」と解釈されるので「就職力」でも構わないでしょう。ところが、今回の「就業力」というのは、どうも企業に就職する(雇用される)能力だけではなく、もう一回り大きな概念で、(企業への就職も含めた)自分で生計を立てていく力という感じです。選定の要件に資格ではない「実学的専門教育」が必須になっておりますから、私のように何らかの専門性をもった個人事業主(フリーランサー)もイメージされているのかもしれません。(新卒学生にはあまりオススメしませんが。)

もっと官僚らしく「税金を納められる力」と言ってくれた方がわかりやすいかもしれませんね。これは冗談ではなく、納税できない(しない)国民が増えるということは国家の一大事ですから。「税金を払う能力(経済力・自立力)と意思(責任感・愛国心)のある新社会人の育成」と言ってくれたら凄くわかりやすくありませんか?

更に悩ましいのは「社会的・職業的自立に向けた指導等(キャリアガイダンス)」が大学組織間の有機的な連携で行える体制を求めていること、極めつけはこれらの就業力育成情報の積極的公表を行うということです。ここまで来ると、一流の経営コンサルタントでさえ唸ってしまいそうです。

 

さて、頭を抱えてばかりはいられませんので知恵を巡らせると、やはり今後のこうしたキャリア教育分野については企業(またはNPO等)と連携するのが一番なのかと思います。これは企業側にもメリットはありますから。数年前から私が主張しているのは、採用担当者は「不採用活動担当者」になってはいけないということです。多くの企業が莫大な予算をかけて行っている広報活動は、知名度向上等には意義があっても、膨大な応募者、それも画一的な思考の学生を大量に産み出しているように見えます。前回のコラムの通り、学生を画一化している犯人は採用担当者なのかもしれません。その結果、ひたすら面接を繰り返しているのは自業自得といえます。

そうした画一的な採用活動ではなく、いくつかの大学としっかり連携を組んで、短時間のセミナーではなく、ちゃんと社会・企業・仕事を教育し、その結果として良い人材を評価・確保できるような本当の「育成・採用活動(私はこれを養殖型採用と呼んでいます。詳細は下記サイトをご覧下さい。)」を行うべきではないでしょうか。これを「青田買い」と言う人もおりますが、とんでもない。青田は放っておいても稲は実りません。手間暇・愛情(教育)をかけて初めて実りますし、若者には稲と違って足があるので気に入らないと逃げちゃいますからね。今回の公募案件を契機に、大学と企業が改めて正しい(理想的な)連携を考えるキッカケになって欲しいと思います。

▼参考URL:成功する採用「狩猟型より農耕型」(日経ビジネスオンライン)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100408/213911/

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