第185号:就活保険と時期のミスマッチ

いま、都心の電車で目立つのはリクルート・スーツの女子学生です。ああ、一般職の採用活動がヤマ場なんだな、と感じます。今シーズンの傾向でかなり鮮明に見えた気がするのは、学生の内定時期に明らかな差が出ていることです。端的に言えば、有名上位校・総合職(4月内定者)、中堅校・一般職(5月内定者⇒現在進行中)、ということで、これは時期によって企業の採用意識がかなり明確になってきたということだと思います。

 

こうした傾向がハッキリとしてきた主な理由は、企業の採用予定数が減少してきているからでしょう。超長期化する学生の就職活動に反して、4月以降の企業の採用選考期間は短期化しています。採用数が少ないのですから、当然です。企業は短期決戦で片付けて、時期がきたらあっさり引き上げて無理な採用をしていません。

それは中堅企業の採用活動を見ていても感じます。これまで中堅企業の採用活動は大手が一段落するGW明けからがヤマ場でした。内定辞退者もわかったし、さあ大手の最終選考で不合格になった学生の「落ち穂拾い」を始めるか、と腕まくりをしたものです。ところが不況と言われすぎているせいか、最近は中堅企業も内定辞退者が少なくなってきて、GW明けの追加採用枠があまりありません。採用担当者に状況を尋ねてみると「今年は5月末までに決着をつけます。」という声を良く伺います。

 

そのせいか、学生を見ていると、4月に大手ばかりを回りすぎて全滅したので、5月以降は中堅企業を回り直そう、という学生はなかなか結果が出ずに焦っています。その主な理由は、以下でしょう。

1.有名上位校の学生に中堅校の学生のポジションを取られている

2.いきなり方向転換をしているので、志望動機(業界研究)が浅い

3.内定を1つも持っていない

 

1と2の理由については説明するまでもありませんが、3についてはオヤ?と思われたでしょう。ここでいう内定とは、「第一志望ではなかった企業の内定」です。つまり、この時期に中堅企業に採用されやすいのは4月以前にも中堅企業をある程度、回っていた学生です。本命の有名企業を狙いながら、ちゃんと保険をかけているのですね。笑い話のようですが、4月に生保・損保業界の大手企業ばかり狙っていて結果が出なかった学生は、自分の就職活動に保険をかけるのを忘れているのです。

 

採用担当者もそこを良く見ています。ですから、この時期の採用面接では必ず学生の就職活動状況を質問して内定の有無、もしくは最終選考までいったかを確認します。採用担当者にとって、他企業の内定を持っている学生は安心ですから。まだ自分の選考眼に自信の無い採用担当初心者には、そこを最重視している方もいます。(逆に景気の良いときは、大手の採用選考基準も緩みますので、失敗することもあります。)

 

ということで、学生に注意して欲しいと思うのは、自分の採用活動のポートフォリオ(リスク分散)をしっかり考えることと、資質・志望のミスマッチだけではなく、状況が変わった今は「時期のミスマッチ」も忘れないことですね。4月以前は大挙してやってきた航空・金融志望者等が、この時期に焦って一気に方向転換しているのは、見るに忍びありません。

第184号:文科省の就業力育成支援事業

GW明けで就職指導もますますご多忙な時期かと思いますが、官公庁の公募シーズンでもありますね。大学によって体制はそれぞれですが、今回の文科省の公募のように「就業力育成支援事業」となると、就職課やキャリアセンターの職員の皆さんにいきなり仕事がふられることがあるのではないでしょうか。この季節は私の方にもこうした相談を戴くことがありますが、今回の案件はなかなかハードルが高いと感じます。

 

まず「就業力」というものがよくわかりません。英語のエンプロイアビリティ(Employability)の訳から来たものかもしれませんが、これは一般に「企業に雇用されうる力」と解釈されるので「就職力」でも構わないでしょう。ところが、今回の「就業力」というのは、どうも企業に就職する(雇用される)能力だけではなく、もう一回り大きな概念で、(企業への就職も含めた)自分で生計を立てていく力という感じです。選定の要件に資格ではない「実学的専門教育」が必須になっておりますから、私のように何らかの専門性をもった個人事業主(フリーランサー)もイメージされているのかもしれません。(新卒学生にはあまりオススメしませんが。)

もっと官僚らしく「税金を納められる力」と言ってくれた方がわかりやすいかもしれませんね。これは冗談ではなく、納税できない(しない)国民が増えるということは国家の一大事ですから。「税金を払う能力(経済力・自立力)と意思(責任感・愛国心)のある新社会人の育成」と言ってくれたら凄くわかりやすくありませんか?

更に悩ましいのは「社会的・職業的自立に向けた指導等(キャリアガイダンス)」が大学組織間の有機的な連携で行える体制を求めていること、極めつけはこれらの就業力育成情報の積極的公表を行うということです。ここまで来ると、一流の経営コンサルタントでさえ唸ってしまいそうです。

 

さて、頭を抱えてばかりはいられませんので知恵を巡らせると、やはり今後のこうしたキャリア教育分野については企業(またはNPO等)と連携するのが一番なのかと思います。これは企業側にもメリットはありますから。数年前から私が主張しているのは、採用担当者は「不採用活動担当者」になってはいけないということです。多くの企業が莫大な予算をかけて行っている広報活動は、知名度向上等には意義があっても、膨大な応募者、それも画一的な思考の学生を大量に産み出しているように見えます。前回のコラムの通り、学生を画一化している犯人は採用担当者なのかもしれません。その結果、ひたすら面接を繰り返しているのは自業自得といえます。

そうした画一的な採用活動ではなく、いくつかの大学としっかり連携を組んで、短時間のセミナーではなく、ちゃんと社会・企業・仕事を教育し、その結果として良い人材を評価・確保できるような本当の「育成・採用活動(私はこれを養殖型採用と呼んでいます。詳細は下記サイトをご覧下さい。)」を行うべきではないでしょうか。これを「青田買い」と言う人もおりますが、とんでもない。青田は放っておいても稲は実りません。手間暇・愛情(教育)をかけて初めて実りますし、若者には稲と違って足があるので気に入らないと逃げちゃいますからね。今回の公募案件を契機に、大学と企業が改めて正しい(理想的な)連携を考えるキッカケになって欲しいと思います。

▼参考URL:成功する採用「狩猟型より農耕型」(日経ビジネスオンライン)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100408/213911/