第178号:自己・中心のエントリーシート

大学の期末試験が終わり、ぼちぼち企業の採用活動が始まってきました。この不況のせいなのか例年よりも少々ゆっくりしている気配です。エントリーシート(ES)の受付も始まり、学生は山ほどプレエントリーした企業に向けて必死にESを書き始めていますが、最近のESの傾向として感じられるのは、その内容が自己中心的なところです。

具体的には以下のような点です。

1.消費者・顧客目線になってはいるが、販売者・企業目線になっていない。

⇒今の学生のプレエントリー数は増加していますが、志望企業群は身の回りの耐久消費財を扱う企業が中心で、自分の気に入った商品の良さを他の人にも勧めたいという気持ちを志望動機にしている学生が本当に多いです。確かにお客様の気持ちは大事ですが、企業が採用したいのはそれを販売・企画する側の人間です。こうした学生は、「その商品を販売する企画を1つあげてみて下さい。」という質問に、誰でも思いつくような一般的な回答しかできません。逆にインターンシップの経験があって、企業側の舞台裏を知っている学生などは具体的な提案が出てきます。

2.自己PR体験談志望動機とが結びついていない。

⇒「学生時代に頑張ったことを具体的に説明する」という定番の課題について語られている内容が、志望動機とつながっていない学生が多いです。一所懸命なことは伝わってくるのですが、「それは何のために書いているの?」「そのPRはうちの会社でどんな仕事をしたくて書いているの?」と問いたくなります。非常に多いアルバイトの話で、非正規社員としての笑顔の仕事ぶりをアピールされてもこのご時世では正社員採用には結びつきません。

何故、こうしたESが増えてきたかとあえて採用担当者の視点で想像してみると、コンピテンシー面接の流行によって志望動機を聞かない企業が増えてきたからかもしれません。バブルの頃の面接では頑張ったことよりも志望動機の方が重視されていました。それほど実現性が無かったとしても、将来への夢や世界への野望などを問われれば、多少根拠の無い自信でもそれなりに風呂敷を広げることができましたし、それをキッカケに社会で活躍する自分を考え始めたものです。

ところがこの10年間に企業が精鋭採用にシフトして、学生の将来性(志望動機)を見るのではなく学生の過去の実績(体験談)を求め続けた結果、どうも今の学生を身の回りしか見えない小粒な人間にしてしまったような気がします。(コンピテンシー面接は過去の実績をみて将来の可能性を類推するものなのでちゃんと将来性を考えているのですが、ESの設問がそうした期待よりも根拠ばかり求めている印象を学生に与えてしまったのではないかという危惧です。)独創的で個性的な人物を求む、と言いながら、選考手法はあまりにも没個性なことに採用担当者も気づくべき時なのかもしれません。

就職活動は自分中心の世界から社会中心の世界に入っていくことです。その当事者である学生と採用担当者がお互いの夢と期待を大いに語るべき場であって欲しいものです。

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