第157号:前例が役立たない今シーズン

東京でも桜が開花し、いよいよ大手企業の採用選考が本格的に始まります。現時点での学生の就職活動を見ると、昨年より学生は早く動き出しているものの、選考合格の進捗や内定獲得のスピードは逆に遅くなっております(ダイヤモンド・ビッグ&リード社の学生モニター調査から)。これは明らかに企業の内定出しが慎重かつ厳しくなってきているということでしょう。

 

今年ほど採用担当者にとって先の見通しが立たないままに採用活動を行うシーズンもないでしょうが、大手企業の動きが見えてくると、それに合わせて中堅企業の動向も決まり、全体の動向が明らかになってくるでしょう。しかし推測できるのは、大手企業の採用予定数も軒並み大幅減少しておりますので、今年は4月のスタート後、早期に決着がついてくるだろうということです。というのは、採用数が減るということは採用選考期間も短くなるということだからです。特に今年は採用コストの面からも、エントリーシートや筆記試験等での初期選考でも絞り込みが厳しくなり、面接でも「迷ったら落とす」という厳選採用になってきております。

 

実際、私がエントリーシートの添削や模擬面接を行っていても、昨年なら選考パスした水準の学生が今年はなかなか通りません。OB/OGの就職体験談もあまり参考になりませんし、今シーズンは改めて気を引き締めて取り組んで欲しいものです。具体的には、志望動機をしっかり考えてきてハッキリ述べて欲しいと思います。

しかしながら、模擬面接を行っていると、自己PRはそれなりにまとまっていても、それが志望動機につながっていない学生が非常に多いです。大学で力を入れたことを企業でどんな風に活かしていきたいのか?その企業のどんな部署でどんな仕事をしたいのか?をしっかり説明できていません。

 

これは、もしかするとここ数年主流になってきているコンピテンシー面接の影響かもしれません。この面接手法では「行動実績」を中心に聞かれ、企業によっては「志望動機」を問わないところがあります。(実際、最近のエントリーシートからは「志望動機」という言葉が減っています。)そのため、学生はアルバイトやサークル活動のことを一所懸命に自己PRにまとめてきますが、それがどんな仕事に就きたいから書いたのかを考えていないことがあります。採用担当者には、そういった学生の自己PRは「この学生は何のためにこの話をしているんだろう?」と思わされます。

 

また最近の学生の志望動機は、企業セミナーで採用担当者が話したことをそのまま繰り返していることがあります。「御社は業界シェアも高く、財務的にもしっかりしており、教育制度も充実しています。」そして続けて「セミナーで御社の社員に実際に触れてみて、暖かい人柄や社風の良さを確信しました。」と語る学生が非常に多いです。これでは全くその応募者の良さが判断できません。

 

この春はかなり厳しそうですが、企業は採用数をかなり絞り込んでいるだけに、もしかすると夏以降でまた新たな動きが出てくるかもしれません。今シーズンは学生や就職課の方々にとって長い戦いになりそうですが、ご健闘をお祈りいたします。

 

第156号:最低限の採用活動

3月決算が近付き、いよいよ経営者も来期の人員計画を出さなければならない時期となり、人事の現場にも採用予定数という具体的な数字が落ちてきました。先週あたりから大手企業の採用予定数が新聞記事に発表されてきておりますが、実際はこういった数字は本当の採用予定数ではありません。採用担当者はそれを知りながらも覚悟を決めて採用活動に取り組んでいるのです。

 

新聞発表の採用予定数が本当の数字でないという意味は、企業がいい加減な数字を新聞社に出しているわけではなく(そんな企業もたまにありますが)、本当に必要な人員数を計算して積み上げた「実数」ではなく、経営トップの判断でこの位の人数を採用したいという「意志」だということです。これは経営計画の売り上げ目標も同じで、1年先の売り上げ目標はかなり計算して算出しておりますが、3~5年先(昔、中長期計画が流行っていた時期は10年先まで発表している企業もありました)の数字は、「この位は売りたい!」という意志というか目標であるのと同じです。しかも今は超早期化した採用活動であることと、まれに見る経済の激変期なので、3ヶ月先だって予測は困難です。

 

しかし、それでも採用担当者はこれまでのしがらみから採用活動を始めなければなりません。既に広告もセミナーも行ってしまい、学生に選考案内やDMまで流しておりますし、もし万が一景気が急速に好転した場合は採用数が不足することになりますから。そんな想いを抱えながら、企業セミナーでは不安な顔をせずに笑顔でプレゼンテーションをするのはなかなか辛いものがあります。

 

こういった状況では当然ながら企業の採用選考ハードルは上がります。採用数を必要最低限に絞った場合、以下の5つ方法をとるのが普通です。

1.縁故だけ・・・どんな企業にも多少のルートはありますし、縁故者にも優秀な人はいます。

2.理系だけ・・・メーカーの場合ですが大学の勉強が重視されない文系は不況期に絞られます。

3.推薦だけ・・・「理系だけ」に含まれますが、理工系大学教授とのパイプを死守します。

4.都心だけ・・・不況では出張費用が真っ先に削減されますので近郊大学だけ訪問します。

5.有名校だけ・・・大学偏差値は不況期にこそものを言います。

 

これらの採用手法はコストがあまりかかりませんし、小規模な採用ならこれだけで十分な場合もあります。不況期になると縁故紹介も増えてきますが、断る理由も「不況なので」「人員整理中なので」と楽になりますし、縁故応募者のレベルも上がります。逆に、縁故応募者も1社では不安なようで、縁故で数社に応募する場合さえあります。かつて内定を出したら「御社は(縁故応募の)第3希望なので、ちょっと待って下さい。」と言われたことがあります。

 

さて、こんな不景気だからこそ大企業に入りたいという応募者の気持ちはわかりますが、今年は採用数が少なくなった上に応募者数は例年より2~3割の増加傾向なので、大手企業志望だけは非常に危険です。先日、経済産業省が新人の採用と教育に熱心な企業という報告書を出しました。不況期にはこういったところも是非、根気よく回ってみて欲しいものです。

▼雇用創出企業1400社(経済産業省)

http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/kigyogaiyosyu.html