第98号:名実ともに全入時代

だんだんと秋が本格的になり、採用担当者も来春の採用活動に向けた「仕込み」に入る頃です。そんなとき、ふと飛び込んできたニュースは大学の入試受付変更に関するものでした。「来春の入試の指定校推薦は高専を含む国内すべての全日制高校を指定校にする」。なんのことかすぐには理解できなかったのですが、全国の高校全部を推薦指定校にするとは、結局、推薦を廃止する、または入試を廃止する、ということなのですね。採用担当者が今でも大きな拠り所にしている大学入試偏差値が、音をたてて崩れていくようです。

この時期は今春の採用活動の総括を終え、新たな企画をたてて母集団形成の準備を始めます。どんな学生をターゲットにするべきか、どんな広告をうつべきか、どんな会社案内をつくるべきか、何処の大学を重点的に訪問するのか、どんなメッセージが学生に響くのか・・・、メディアが多様化している今日、限りある採用予算でどのような配分をするかはとても悩ましい問題です。如何に資質の高い学生と効率よく出会うのか?採用担当者の考えるのはただその1点です。

そういった戦略を考えているこの時期に、このニュースの採用担当者へのインパクトは大きいと思います。AO入試が増えたとはいえ、現在でも大学の偏差値が企業採用担当者にとって最も有効な指標であることには変わりません。それを大学の側から放棄したということは、企業のターゲットリストからも外されることは間違いないでしょう。このニュースを聞いた高校教員が「生徒に配る指定校リストには掲載しなかった」と語っているのと同じ心境です。企業にも、知名度をひくためにいち早く来期の採用手法のネタを明かして(新聞等に広報して)学生の応募意欲をそそる手法はあります。広告を数多く出稿している大手企業ならではのやり方です。今回の大学の告知もそういった意図ならば理解もできますが。

先日、懇意にさせて戴いていた大学のキャリアセンターの方が、急な人事異動で入試広報に異動されました。いろいろな企画を一緒に考えて成果を出してきただけに残念なことですが、今の大学にとって応募者を集めることは経営上の緊急課題ですから優秀な人材を最重要のポジションに配置する事情はわかります。そのご担当者は企画力に優れた方でしたので、きっと良い仕事をされると思います。しかし、入試広報ではなく入試”広告”の仕事にならないことを祈るばかりです。その大学とは今後も長いお付き合いを続けたいものですから。

 

 

第97号:Web2.0型採用戦略

企業の採用広告においてインターネットはもう必要不可欠のメディアになってきております。そのためインターネットの技術的な進化による新しいサービスがたくさん出てきておりますが、なかなかこれについていくのは大変です。書店では「Web2.0」関係の書籍がベストセラーになり、TVのニュースでは「SNS」が頻繁に解説されておりますが、みなさんはどこまで理解されているでしょう?これにちゃんと追いついているのは若者の方でしょうね。

つい先日、mixi(ミクシィ)という企業が株式上場しました。既にみなさんもご利用されていると思いますが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という技術を使った双方向性の高く参加者同士が出会いやすい仕掛けのサイトを運営しています。加入者が既に500万人ということですから、これはは立派な社会(コミュニティ)ですね。

このサイトの特長は紹介制であることで、既に加入している会員の誰かから紹介状を送って貰わないと入れません。そしてこれがWeb2.0の世界で大事な「信頼性」を保証しているのです。ITに詳しくない方のために、ちょっと就職サイトを例に説明してみると、以下のとおりです。

・Web1.0 ⇒ 情報提供者側(企業・広告代理店)から学生への一方的な情報提供

・Web1.5 ⇒ 情報提供者に匿名学生からの反論情報(2ちゃんねる、みんなの就職活動日記)

・Web2.0 ⇒ カリスマ就職学生側からの情報提供&交換(信頼性の高い個人日記:ブログ)

つまりマスコミ側からの一方的な情報提供だったのが、就職活動をしている現役学生の発信する個人情報の方がどんどん台頭してきているということです。それに決定的に欠けていたのが「信頼性」で、Web1.5の時代は情報が多いものの信憑性に欠けるものが殆どでした。ところが、最近は(人物は特定出来ない程度に)個人情報を開示して、リアルに就職活動を公開する学生が出てきました。そのため、10000人の信頼性のない情報よりも、数人の信頼性のある情報(ブログ)に閲覧が集中し、いわゆる「カリスマ就活学生」が登場してきました。就職情報提供企業の方も、最近はそういった学生を集めてブログの集合体のようなホームページを運営するところが出てきています。

さて、こんな時代になると企業の採用戦略は非常に難しくなり、採用担当者に求められるセンスが高度になってきます。これまでは企業の都合で立てられた採用戦略が、これからはWeb2.0型就活を行う学生の動きを見ながら戦略を考えなければなりませんから。それでなくても少子化は始まっているし、いやはや大変な時代になってきたものです。

*参考文献:

「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」梅田望夫:筑摩書房

「Web2.0でビジネスが変わる」神田敏晶:ソフトバンククリエイティブ