企業の採用方法にはいろいろな手法があります。外資系企業においてはポピュラーで、最近は日本企業でもたまに見かけるのが「社員紹介採用」です。縁故採用の一種ですが採用部署が公募するので従業員は誰でも利用できます。これは社員のクチコミを採用広報に利用するものですが、大学の入試広報でも応用できるかもしれません。
日本企業の縁故採用というと、紹介してくるのはお偉いさんが多いので、採用選考の現場にあれやこれやと口を出すことが多いのですが、外資系企業では縁故紹介という習慣がないので、採用担当者は精神衛生上、とても楽です。そもそも外資系では現場のマネージャーが採用権限を持っていることが多く、彼ら自身が人事部長のようなものですから、人事部に紹介するというのは入社手続き作業にすぎません。
この「社員紹介採用」は、中途採用で一般に用いられており、公募に知人を紹介して、その人物が採用選考をパスして入社したら一定額の報奨金が出るのがふつうです。報奨金は紹介したポジションによって異なることが多いのですが、トップレベルの経営コンサル業界では100万円を超えるようなこともあります。こういった報奨金が出ることもあって、紹介者は採用選考に口を挟むことはできず、また仮に不採用だった場合もクレームをつけてくることはまずありません(この点、外資系は本当に楽です)。
ただし社員紹介採用は、やり方によっては日本の職業安定法に抵触することがあるので(人材紹介は国の許可が必要)、報奨金の支払い方法等については気を遣います。一般社員を即席ヘッドハンターにするようなものですからね。それでも人材紹介業を使うより、はるかに安価で良い応募者が集まることが多いのです。
さて、大学入試広報担当の方と話をしたときに、大学広報では在学生のクチコミによる受験生への紹介が一番効果があると聞いたことがあります。クチコミによる広報はバイラル・マーケティングと呼ばれますが、ネット上での個人間のネットワークでも応用されています。バイラル(viral)というのは「ウイルスによって起こる」という意味で、伝染病のように伝播する効果を表します。少子化のこれから、どこかのカード会社ではありませんが、紹介した新入生が入学したら、紹介してくれた学生に報償金(奨学金適用等)を払うというのは効果があるかもしれませんね。
社員紹介採用が成功するキーは、社員が自分が属する会社を他人に紹介したくなるような状態であること。つまり社員がその会社を好きであるということです。同様に、在学生が自分の大学を好きであることがクチコミ広報が成功するキーとなるでしょう。学生への報奨金は非現実の域としても、企業も
大学もまずは社員・学生に対する精神的報酬を用意することが第一歩ですね。
第76号:脳の運動不足にならぬよう
3連休の体育の日にショッキングなTVニュース画像を見ました。子供の体力低下が止まらずに、ジャンプがちゃんと出来なくなっているシーンです。報道によると、9歳の男子の体力は20年前の女子の体力と同等だとか。運動不足が原因なのは明らかですが、ふと思い出したのは大学で行う就職ガイダンスでのシーンです。講演最後にお決まりの問いかけの「何か質問はありますか?」。何処の大学に行っても無反応なのをみると、大学生の運動不足も相当に深刻なようです。
企業採用担当者やキャリアカウンセラーが大学で懸命に講演をし終えたとき、もっとも期待と不安をもってむかえる時間は最後の質疑応答です。今日の話はどんな風に聞いてくれたんだろう?自分の話はわかりにくくなかっただろうか?講演者にとっての評価ともいえる緊張の一瞬です。
しかし、今ではすっかりこの緊張感も薄くなり、講演者から積極的に働きかけない限りまず質問が出ることはありません。気を遣ってくれる大学職員の方が、「うちの学生は大人しくて真面目なので質問はできないと思います。」と講演の最初から伝えて戴くことも多いです。「いえ、どこの大学も同じですよ・・。」とお答えするのは私だけではないでしょうね。
私は学生時代に運動部だったのですが、入部して来た新人の動きを見ていると、同じ未経験者であっても、運動に慣れている新人はすぐにわかります。特別に才能のある者を除いて、小さい頃から体をどれだけ動かしていたかの差によるものでしょう。
しかし、冒頭で申し上げた運動不足とは、勿論、手を挙げる筋肉が衰えているということではありません(もしかするとそれもあるかもしれません。)彼らが運動不足に陥っているのは、脳の使い方です。養老先生ではありませんが、人間の思考や発想も神経回路の使い方による個性で決まります。それまで一度もやっていない運動ができないのと同じで、使った経験の少ない脳の使い方はできないのでしょう。つまり、質問が出てこないというのは、授業や講演を聞いてもそれに疑問を持ちながら聞いた経験が少ないのでしょう。
今の時代、子供にはあまりに全てが用意され過ぎて回り道や失敗をする機会が少なくなっています。大人の方でもしっかり用意しておくので、失敗したくてもなかなか失敗できないんですね。その結果、体験してから考えるという非効率な生き方はやりにくくなり、失敗してはいけない、失敗は無駄である、という思考がかなり強くなっているようです。私は最近の講演では「生きるってことは実験と冒険」「失敗から学べ」ということを繰り返し話すようにしているのですが、この話を聞いた学生は口を揃えて「不安だった就職活動の気が楽になった。」と言います。この反応もどこの大学でも共通の講演後の感想です。
私の運動部の先輩はこの夏、高校1年生の息子さんと二人で東京から仙台まで自転車で帰省したそうです。息子さんはきっと型破りな体力と脳力をもった若者になるでしょう。私も体力に衰えを感じる年齢になってきたのですが、今の学生のためにもうちょっとむち打って頑張ろうと思います。負けてはいられません!
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