少し前の新聞で某有名企業の相談役の就職体験談の記事を見つけました。
「当時の大手企業の新卒採用には指定校応募と縁故応募の二つの枠があった。指定校といっても単に受験資格を得られるだけで、しかも大学から指定校としての推薦状を貰えるのは30人まで。縁故枠も含めて合否は筆記と面接で判定されるので、今振り返っても公正だったと思う。」
*抜粋編集しています。
これは昭和30年前半の就職事情で、当時の大学進学率は15%以下でいわゆるエリートの時代です。少し前の日本にもこんな時代があったのだなあ、と採用担当者としては羨ましくなります。というのは採用担当者の現在の最大の悩みは採用活動にかかるコストアップだからです。コストには広告宣伝にかかる費用の他に、採用担当者が費やす時間コストもありますが、指定校制度というのは募集費用と選抜費用が大学で一部肩代わりしてくれていたのですね。学生の「資質・能力」と「入社意思」を大学が保証してくれていたわけです。現存する理工系学生の推薦制度はその伝統を残しているものですが、さすがにほころびが目立ってきています。
外資系企業の日本法人で採用責任者を担当していたとき、「今の日本では学校名不問というのを標榜する企業が出てきているんだよ。」と米国本社の採用担当者に話したら、「Unbelievable!なんで日本はそんなコストのかかることをするんだ!?大学との関係を軽視しているのか?」と言われ、説明に苦慮しました。はたして指定校制度と学校名不問は、どちらが学校・学生を尊重しているのでしょう?
大学進学率が50%を越えエリートからユニバーサルの時代(全入時代)に入ったいま、採用担当者が企業経営の視点で求められているのは、「資質・能力」と「入社意思」の明らかな応募者といかに効率よくコンタクトするかです。大学と連携の指定校制度と自社独自の学校名不問採用、はたまた社員の個人的ルートのリクルーター制度と、どれを選ぶかは企業の資産と価値観で判断されますが、採用担当者は今の季節、心底、悩みながら来期の戦略をたてています。