各大学の就職課を回っていると、紫陽花の花に負けずにあちこちの業者、団体からインターンシップの告知ポスターが出ています。インターンシップの情報提供は完全に商用サービスになってきたようですね。インターンシップが普及することは社会と学生が近づくことで望ましいことではありますが、手間のかかるところはなかなか担当者泣かせです。
今週販売の週刊誌でも夏のインターンシップ特集がとりあげられており、内定にどう結びつくかがまとめられています。インターンシップを採用活動に直結させるべきかどうかという議論はよくなされておりますが、企業側ではやはり採用活動の一環と捉えている方が多数でしょう。なんといっても成果主義のご時世ですからそれだけの予算を出せるのは採用関係費(採用広告費)しかありません。上記の雑誌のコメントでも、インターンシップを経験した学生はその企業に志望する確率が高くなる、と書かれています。同時に、早期に学生を確保したいというのが企業の本音でもあるとのこと。中には年間1000人近い学生を受け入れている企業もあり、こんな規模になると社会貢献活動ですね。
大勢の学生を受け入れる企業にはいくつかのパターンがあります。まずは企業規模が大きく、学生の受け入れ許容部署が多いところです。電機系製造業に多いパターンですが、これは各部署でインターンシップの内容が異なるので、現場の方々との受け入れ調整が非常に苦労して、学生とのマッチングも気を遣います。次に、同じカリキュラムを大勢の学生がこなしていくパターンです。比較的IT系の企業に多く、ITスキルやコンサルティング・スキルをトレーニングしながら学んでいきます。人事の研修グループなどが主体なることが多いですが、新人研修のようにこの期間は研修準備と評価で徹夜になることも。最後に注意したいのは、労働集約的な作業をさせる企業です。インターンシップ等の名称で様々な業務をさせるのですが、実態は企業の労働力にされていることがあります。それはそれで社会勉強でしょうが、ちゃんとアルバイトという名称にして給与を払って欲しいものですね。
大学内でも夏のインターンシップの参加ガイダンスが盛況ですが、これはまさに採用活動キックオフが10月からまた3ヶ月前倒しなったということですね。めでたく採用担当者はシーズン・オフが無くなりました。こうなってしまったのは、企業採用担当者の自業自得なのか、大学就職課の老婆心なのか、採用情報業者の戦略なのか、さっぱりわからなくなってきました。明らかに言えるのは、情報産業の一分野として就職ビジネス規模が拡大しているということですね。まあ三者ともこれで給料を貰っているので文句も言えませんが。(仕事ほど給料は増えませんけどね・・・。)
今春、就職した新入社員達も研修が終わり現場に配属されはじめました。どの新入社員も就職活動で考えていたイメージと現場とのギャップを感じながら頑張っていることでしょう。最近では5月病という言い方も古くなったかもしれませんが、企業の現場に出た新入社員から早くも転職の相談がありました。人も羨むような人気企業に入ったのですが、人の悩みはそれぞれですね。
新入社員の入社後の心理変化は経営学の研究テーマですが、神戸大学MBAの鈴木竜太助教授が興味深い事例研究をされておられます。先生の研究によると、新入社員の組織に対する愛着心・執着心(組織コミットメントといいます)は「J字型カーブ」を描くといわれています。意気揚々と入社した新入社員は、現場のとのギャップ(リアリティ・ショック)を感じ、「こんなはずじゃなかったのに・・・」と落ち込むことが多いのですが、時間の経過と共にだんだんと気を取り直し、「就職活動で描いていたのは夢だったんだ。」と現状を受け入れ始めて気持ちを向上させていく。その気持ちの変化がJ字型のカーブを描いていることが観察されたのです。落ち込み方の程度や期間は個人差がありますが、最近ではすぐに転職する新人も増え、落ち込んでいる期間がだんだんと短くなってきているようです。(もっとも転職後にまたJ字型カーブにはまって再度落ち込んでいるかもしれませんが・・・。)
このJ字型カーブについては、無駄だから無くした方が良いという意見と、これがあるからこそ若者に忍耐力が付くという意見とがあります。どちらにも一理があるのですが、雇用の流動化を短気に成果を求められるこのご時世では、前者の方が有力になってきているようです。リアリティ・ショックを消し去るために、インターンシップ等を導入して現場を早く理解させる方策が有名なRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)ですね。
さて採用担当者にとっては、新入社員が転職を考えるというのは他人事ではないのですが、意外とまだ大きな問題として業界ネタにはなっていないようです。それは中規模以上の企業では採用担当者と人事労務担当者が別になっているためで、つまり採用する部署と退職希望者対処をする部署が別々になっていることが多いからだと思われます。退職相談は極秘裏に行われるものですしね。本当に採用活動の評価をするならば、単年度で何人採れたという評価ではなく、採用した社員が3年後位にどんな成果を上げているかで評価されるべきなのですが、そこまでしっかりフォローしているところはまだ少数でしょう。(就職課の評価も、就職率ではなく卒業後の満足率なんかで測る考えが必要かもしれませんね。)
たまに採用担当者の耳には、新入社員からの「話が違うよ!」という声や、現場の社員から「何でこんな奴を採ったんだ!」という声が聞こえてきたりすることもあります。まだまだお付き合いははじまったばかりですから、お互い長い目で見ましょう。3年3割といいますが、石の上にも3年ともいうではないですか。
参考文献:「組織と個人 ~キャリアの発達と組織コミットメントの変化」鈴木竜太著(白桃書房)
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