第43号:就職ガイダンスからキャリア教育へ

桜咲く日本の4月は新しいシーズンの始まりですね。企業人事部は新入社員の受け入れに、大学就職ご担当の皆様は新入学生の受け入れに慌ただしく追われる季節です。大学生のキャリアに関する講演やトレーニングを行う私の方にも今期のお問い合せを戴くことがありますが、最近は就職ガイダンスというよりもキャリア教育という視点でのご依頼が増えてきました。時には教授と協力して正規の授業の講義として行うこともあり、徐々にではありますが、大学改革もようやく春を迎えつつあるのかな、と感じます。

この春は多くの企業業績も上向いておりますが、少数精鋭の号令の元、採用と能力開発に関わる人員は削減されたままで、両方の業務を兼務している方は多いです。今はまさに新入社員の研修プログラムが始まったところですが、企業と大学とは似た課題を抱えているようにみえます。例えば現在、若年社員層の能力開発の基本路線は外部業者を使ったアウトソーシングを導入することであり、優秀なインストラクターを確保することがポイントですが、これは大学就職担当の方が職業ガイダンスの講師を選定するのと同じことです。そして厳しい競争を越えた上級社員になると、コーポレート・ユニバーシティという名の社員講師(その企業の役員やトップレベルの業績を出している実力者)が直接指導したり、留学として社外の修行に出したりしますが、それは大学上級生のゼミや、交換留学にあたるのかもしれません。

さて、こういった新入社員・学生向けのアウトソーシング中心の能力開発スタイルには2つの課題があるかと思います。

まずは、星の数ほどある業者のメニューや、講師をどう組み合わせて全体のプログラムの方針を考えるか、ということです。大学の就職ご担当の方からは、「今年はこんな内容で実施するつもりですが、他に何かご提案はありますか?」というお話をよく伺います。各プログラムは十分な内容で、新しいメニューを追加する必要は無いようですが、気になるのはそこには全体に流れる思想はあるか?各メニュー間の関係はとれているのかな、という点です。

次に、そのメニューを受講していく新人の進捗状況はどのようにフォローするのか、という点です。企業においては、ここをフォローするのがOJT(On The Job Training)という各配属現場の先輩社員による指導やナレッジ・マネジメントというITのシステムです。小規模な大学であれば、学生全員に面談を行ってきめ細かく指導することもできるでしょう。しかし、ある程度の規模を越えた時、就職担当者だけでは対応は不可能になり、それを支援するシステムやチームが必要になってきくるのではないかと思います。

また、就職活動からキャリア開発活動へ、就職ガイダンスからキャリア教育へ、という課題の答えもここにあるのではないでしょうか。時節柄、就職年次だけではなく、新入生からキャリア開発教育が必要だ、という声を多くの大学からの方々からお伺い致しますが、まだ日本のどこの大学もこれといった切り札は持ち合わせてはいないでしょう。しかし、大事なのは暗中模索しながら実行することで、それはまさに個人のキャリア形成と同じことではないかと思います。同じやるならば、企業の能力開発も大学のキャリア開発も、同じ豪華なフルコースのメニューを作るだけではなく、例えスープの一皿だけでも暖かい我が家だけの手料理のメニューを作ってみたいものですね。「ガイダンス」から「教育」へ進化させる秘密のレシピもそこにあるのではないでしょうか。

 

第42号:模擬面接を行って-2

前回は大学就職部主催の模擬面接のことをお伝えしましたが、今回は学生サークル主催で行われた模擬面接について書きましょう。ダイヤモンド・ビッグ&リード社のご協力を得て会場を借り、ある大学のテニス・サークルを母体とした就職活動中の学生の集団に、模擬面接を行いました。集まった学生達は積極的に企業説明会を回り、自己分析や志望動機もずいぶんと練れてきていますが、まだまだ固定化した概念から抜け出せない方も多いです。

自己紹介や志望動機に慣れてきた学生でも、いざ模擬面接を行ってみると、会話の内容が曖昧な点があり、評価できない時があります。会話の内容は、しっかりと「結論」→「理由」→「事例」という構造になっているのですが、個別の表現が相対的になっており、その経験の具体的な点が理解できないときです。

例えば、以下のような自己PRをよく伺いますが、これでは全くポイントになりません。

「私はリーダーシップには自信があります。大学でも最も厳しいと言われる××ゼミに入り、ゼミ幹事としてリーダーシップをとり、他大学とのディベートにおいて優秀な成績をおさめました。またテニスのサークル活動ではトレーニング・キャプテンとして効率の良く上達するメニューを考案し成果をあげました。」

・最も厳しいと言われる××ゼミ→何が基準で厳しいかわからない。

・ゼミ幹事としてリーダーシップをとり→どんな役割かわからない。

・優秀な成績をおさめました→どんなレベルかわからない。

・効率良く上達する→効率、上達の度合いがわからない。

・成果をあげました→どんな成果かわからない。

揚げ足取りのような指摘で恐縮ですが、採用面接においての鉄則は応募者のことが分かるということです。「分かる」ということは言葉通り、他者と分別されて理解する、ということであり、面接での抽象的・相対的な表現を具体的・絶対的な表現の理解に変えていく作業とも言えます。上記のような自己PRがあった時は、それについての「状況」「役割」「行動」「成果」を曖昧な表現でなく回答して戴くまで質問を行います。(ただ、あまりに回答が要領をえないと、「判定不能」ということで面接を終了します。)最近、流行っているコンピテンシー面接も、誰が見ても客観的に変わらない行動・事実にフォーカスした質問を行い、それが自社の求める人材像と一致しているか、という観点で行われています。

さて、模擬面接を行っていると、短期間に上達する人と、そうでない人が居ります。その差は何処にあるのでしょうか?これは人のアドバイスや意見を素直に受け入れられる(自分の見方を変えられる)かどうかのようです。有名校で頭の良い学生ほどよくある「正解探し」の方法論に目がいってしまい、自分が通らなかったので自分の考え方を変えよう、という意識になりにくいようです。それまでその方法で成功してきているだけに意識を改革するのは難しいのかもしれません。

こんな時は、ゆっくりと長い会話をしたり、グループ・ディスカッションを行ったりしていると効果があるようです。要は自分を冷静に客観的に見て貰う機会をつくることですね。しかしこうしてみると、就職活動中の学生にとって模擬面接ほど有効なキャリアカウンセリングはないかもしれません。

 

第41号:模擬面接を行って

先日、大学からのご依頼で、Professional Recruiters Clubのメンバー数名と模擬面接を行って参りました。いろいろな業界から現役面接担当者が腕まくりをしてお伺いしたのですが、残念ながら多くの学生の方々がまだまだ準備不足で、こちらの期待するレベルまでの面接はあまりできませんでした。まだ時期が少し早いので仕方のないことかもしれませんが、基本的な心構えの不足は今すぐにでも直して欲しいものですね。

模擬面接は本番さながらに、学生の挨拶、立ち居振る舞い、笑顔から、面接における会話中の敬語、論理構成等を見ていくものです。客室乗務員やアナウンサーを採用するのならともかく、実際の選考では多少のマナーや敬語の失敗などは気にしません。しかし、「だからまだできていなくても良い」と考えるのと、「だけどマナーもできるだけ頑張ろう」と考えるのとは大きな違いがあると思います。その心構えの有無が、事前の準備になって現れるものだと思います。つまり、マナーがちゃんとできるということは、それ自体を見るというよりは、それによって準備をしてきたな、ということが評価できるのです。そして、実際に準備をしてきた方は、より高いレベルまでのトレーニングができるのです。

今回の模擬面接においては、事前に準備をしてきた学生は3分の1ほどで、その他の学生さんは、とりあえず受けてみよう、という様子でした。前者の方は、面接の本題である論理構成や質疑応答に入っていけるのですが、後者の方はそこまで話の内容(自己紹介・志望動機)がまとまっておらず、表面的な敬語やプレゼンテーション・スキル、自己分析の仕方の指導に終わってしまいがちです。現役の面接担当者が来たことで、良いキッカケになったとは思いますが、これでは折角のチャンスが勿体ないと思いました。不合格にならないポイント(一次選考の合格レベル)は指導できても、更に他者との比較による合格レベル(二次面接以降の合格レベル)までは指導できません。

しかし、この模擬面接を見ていて、最近の企業説明会での参加学生の1シーンがふと想起されました。今はちょうど企業説明会が最盛期を迎えており、学生は多くの企業を足繁く回っております。しかし、事前にその会社のことを予習することは少なく、とりあえず行ってみてその説明会の雰囲気が良かったら応募する、という学生が増えています。これは全く今回の模擬面接を受ける態度と同じではないでしょうか。最近の企業説明会では選考を伴わないものも多く、学生に予習を求めないものがありますが、そういった風潮がますます学生の「とりあえず思考」を増やすことになっているのかもしれません。(そういった事前準備をしていない学生を選別するためにエントリーシートを使うなら、お互い壮大な労力の無駄ですね。)

ということで今回の模擬面接では、「企業セミナーに参加するなら、最低限その企業のホームページを見て、質問を一つは持っていって下さい。」ということまでをお伝えしました。これも必要なものがすぐに入手できる情報過多の時代がその背景にあるかと思いますが、受け身ではなく積極的にチャンスを活かす若者になって欲しいと思います。マナーや敬語については、短時間に習得することもできますが、その下にある基本的な心構えを築いていくのは時間がかかります。就職指導のご担当の方も、この点にいつも頭を悩ませていることでしょうが、できるだけ早く気づいて欲しいものですね。今度の模擬面接では、カルチャーショックを与えるような圧迫面接をやってみましょうか?