時節柄、大学就職課や学生サークルから、エントリーシートの書き方の指導についてご依頼を多く戴くようになりました。エントリーシートの一番大きな役割は言うまでも無く、応募者を一定のレベルに保つための選抜機能です。学生の方々は多くのエントリーシートを前にして汗だくで書いておられると思いますが、それを受け取る採用担当者もネジリ鉢巻きで評価しています。今回はその舞台裏を少しご紹介しましょう。
エントリーシートの利用目的については、企業毎でかなり異なります。書類選考に使っていたり、単なる面接の補助資料であったり。選考方法についても、採用担当者が総出で全てに目を通している企業もあれば、外部の業者に評価をアウトソーシングしたりと千差万別です。書類選考を行う場合、大量のエントリーシートを高速に評価するためにはいくつかのコツがあります。(これはある企業の例です。)
1.見出しを見る。
2.数値(アラビア数字)を見る。
3.実例(固有名詞)を見る。
第一段階は、「読む」のではなく「見る」のです。見やすいエントリーシートは要点がまとまっていて内容も充実していることが多いので、ザッと見て見やすいエントリーシートをまずピックアップするのですが、その際にチェックするのが上記の3点です。「見出し」があるということは、結論が先にあるということです。「数値」(漢数字よりアラビア数字の方が見やすい)があるということは、説明内容に具体性があるということです。「実例」はアピール内容の具体性ですが、ここにキーワードになる固有名詞があるということは、説明内容が概念化(簡略化)されてわかりやすいということです。
こうして第一段階をクリアしたエントリーシートを、じっくり読み始めますが、ここではどちらかというと加点法より減点法が中心です。つまり、ユニークなことが書いてあるか、ということよりも書くべきコトがちゃんと書いてあるか、を読みます。あまりに的はずれなことを書いていたり、かなり特殊な言葉や奇怪な表現があったりすれば敬遠します。たまにエントリーシートの設問にも風変わりなものを見かけることがありますが、それは応募者が極端に多い一部の業界で、逆に一般的な回答よりもユニークな回答を求めているのでしょう。
最近、ちょっと気になるのが小学生の作文のような書き方です。自己分析で過去の自分を振り返るのは良いのですが、その実例に小学校や中学校の時の原体験を書き、「本当の自分」を語ろうとしているものがあるのですが、やや幼児性を感じてしまいます。
ここでご紹介したのは、ある企業の方法のひとつに過ぎませんが、実際、エントリーシートだけで応募者を評価するのは困難です。先日、発表になった経済同友会の「企業の採用と教育に関するアンケート調査」でも、企業が最も重視する採用選考方法・基準は、「面接結果」になっておりました。まずは採用担当者が不合格判定を出せないエントリーシートを書くのが一番ではないでしょうか。
2月に入りいよいよ採用担当者が腕まくりする時期ですが、今年は就職倫理規定遵守で4月以降にスケジュールを仕切り直しする企業も出てきています。それで時間に余裕ができたからというわけではないでしょうが、新卒採用の方法に新しい考え方や方法を導入しようとする企業がチラホラ出てきました。これらは採用方法の工夫だけではなく、採用後の人事システムに踏み込んだ雇用プロセスの変更という考え方です。
応募者の意欲を高めるために、採用担当者はいろいろな工夫を行います。仕事理解を進めるために企業セミナーにより具体的なケース・スタディを入れたり、インターンシップを導入したり。中には企業説明の前に「働くことは何か?」というキャリアデザインのような職業教育を行うセミナーまで登場してきています。こういった採用プロセスの工夫は学生から見ると面白く、個人重視で扱ってくれる優しい企業と映り、応募意欲の向上に確かに繋がっていきます。そういった派手な動きの中で、地味ながら今後の採用市場に大きな意義をもつと思われる改革が出てきました。三洋電機の新卒採用対象者の拡大策です。
既にご存知かと思いますが、三洋電機では来年より大卒後3年以内の社会人をこれまでの卒業見込みの学生と同じく「ポテンシャル採用」として同様に扱うそうです。この方式は日本の大手製造業で初めての試みで、日本の雇用慣行にとって画期的なことではないかと思います。現在、殆どの企業の新卒採用対象は「卒業見込み」とされており、社会人経験の浅い「既卒」の若者を除外しておりますので、一度、入社した企業が肌に合わないとわかっても簡単に転職することはできません。しかしこの方式の会社があれば学生にとっては不要な就職浪人を避けることができたり、入職時におけるミスマッチを早期にやり直すことができたりします。
この方式は、結果として3年以内の退職者を益々増やすことになるかもしれませんが、学生が企業を知るにはどんなに懸命に企業研究をしたとしても(採用担当者が採用プロセスを工夫したとしても)、実際に働くことに勝るものはなく、より良い就職活動につながってくると言えるでしょう。反面、ひとつの企業で頑張る意識を衰えさせる懸念もありますが、企業が従業員の自立という言葉を使い始めた以上、仕方のないことです。また、最近は新卒採用数が景気動向で大きく左右され、就職のしやすい年、そうでない年の差が大きくなり、学生の資質よりも卒業年による運不運が就職に大きく影響してきていますが、この方式ならリターンマッチが可能です。
これからは新卒採用と中途採用の垣根無くなるという大きな流れがあり、こういった雇用プロセスの改革をする企業は徐々に増えてくると思われますが、それこそが企業と個人の関係を考える人事の大事な仕事です。お祭り騒ぎのような採用プロセスの工夫ではなく、地に足の着いた雇用プロセスを改善して優秀な人材を惹きつけるのがこれからの採用担当者の仕事になるでしょう。折角、採用した人材を三洋電機に取られないように頑張らないといけません。
Just another Recruiting way